
新年のスタートにあたって/ 鈴木彰典 元 校長
学校リスクマネジメント推進機構の鈴木彰典です。私は過去に校長経験が13年あり、マスコミが注目していた教育困難校の立て直しを任されてきた経歴もございます。このような学校では報道される内容と実情が全く異なることもあるのですが、様々な経験が今の学校現場の支援に活かされていると感じております。
あけましておめでとうございます。旧年中は当機構の取組にご理解・ご支援を賜りまして、心より厚く御礼と感謝を申し上げます。
社会が急速に変化し、誰もが予測できない現象が世界各地で起きております。この流れは今後も続くものと思われますが、学校教育は社会の流れの影響を受けつつも旧来から重視されてきたことを継承する、いわゆる不易と流行を大切にしながら歩みを進めることが求められると思います。
各学校(園)におかれましては、一人一人の児童生徒等を大切にする学校(園)づくりに向けて、新たな目標を立てられたことと思います。どの学校(園)も目標達成に向けて邁進され、昨年以上に素晴らしい成果を残されることを願っております。
◆不適切な指導
教育活動を推進するうえで、教職員の言葉遣いや振舞いなどは児童生徒等に大きな影響を与えます。当機構にもご相談が寄せられますが、児童生徒等と教職員、保護者と教職員、教職員同士の関係が不適切な場合、トラブルに発展いたします。
令和4年12月に生徒指導提要(文部科学省)が改訂されたことはご承知のことと思いますが、初めて不適切な指導について詳しく掲載されました。
不適切な指導を行った場合には、以下のようなことに留意する必要があります。
- 身体的な侵害や肉体的な苦痛を与える行為ではなくても、いたずらに注意や叱責を繰り返すことは、児童生徒のストレスや不安感を高め、自信や意欲を喪失させるなど、児童生徒を精神的に追い詰めることにつながります。
- 児童生徒や個々の状況によって受け止め方が異なることから、特定の児童生徒のみならず、全体への過度な叱責等に対しても、児童生徒が圧力と感じる場合があることを考慮する必要があります。
次に、不適切な指導の例をご紹介いたします。
- 大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で指導する。
- 児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。
- 組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。
- 殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行う。
- 児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。
- 他の児童生徒に連帯責任を負わせることで、本人に必要以上の負担感や罪悪感を与える指導を行う。
- 指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適切なフォローを行わない。
これらが不適切な指導に該当すると生徒指導提要に掲載されるようになりましたのは、教職員による不適切な指導によって児童生徒が不登校になったり自殺を図ったりすることがあったことが背景にあります。教職員が適切に対応すれば不登校や自殺を防ぐことができるというメッセージが込められていると思います。
体罰や性暴力・性犯罪とは違って、不適切な指導については見過ごしてしまうことがあると思いますが、これからの時代は、不適切な指導についても意識を高めていく必要があります。リスクセンス(危険なことを危険なこととして認識できる力)を高めていくことが不可欠です。
指導観や教育観を変えることは容易ではないと思いますが、一人一人の児童生徒等を大切にすることを第一に考えれば、どのような言葉かけを行い、どのように振る舞えば良いのかが分かると思います。力づくで指導するのではなく、一人一人の児童生徒等の思いや願いをしっかりと受け止め、個々の状況に合わせて対応することが求められていると思います。
◆不適切な指導で処分
令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査(文部科学省:令和6年12月20日公表)によりますと、不適切な指導の状況は以下の通りです。
【発生件数と被害を受けた人数】
【不適切な言動・指導等の態様】
【懲戒処分等の状況】
令和5年度は令和4年度よりも懲戒処分等を受けた人数(総計)が増えております。児童生徒等の人権を無視した指導は通用しない時代であることを十分に認識する必要があります。また、不適切な指導を行った場合は、該当する全ての教職員は懲戒処分または訓告等を受けておりますので注意が必要です。
今号では、不適切な指導を中心に情報提供をさせて頂きましたが、交通違反・交通事故、体罰、性犯罪・性暴力等で懲戒処分または訓告等を受けている教職員が後を絶ちません。各学校(園)での不祥事防止の取組を通じて事故防止に向けた意識がさらに高まり、今年は皆様の学校(園)で不祥事が起きないことを願っております。
当機構は、本年も学校(園)でのトラブルの未然防止や発生時の対応を支援させていただきます。本年もよろしくお願い申し上げます。
※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。
編集者 元公立小学校・中学校 校長 鈴木彰典