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カスタマーハラスメント

鈴木彰典 元 校長 / カスハラ対策、機能していますか? ~義務化後に確認したい 学校・学校設置者の取組~

鈴木彰典(学校リスクマネジメント推進機構)です。私は過去に校長経験が13年あり、マスコミが注目していた教育困難校の立て直しを任されてきた経歴もございます。このような学校では報道される内容と実情が全く異なることもあるのですが、様々な経験が今の学校現場の支援に活かされていると感じております。

 

さて、10月1日から改正労働施策総合推進法が施行され、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)を防止するために必要な措置を講じることが、学校設置者を含む事業主に義務付けられました。これに先立ち、文部科学省は8月28日、「学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン」を公表しました。皆さんの学校や学校設置者では、カスハラ対策がどこまで整備され、実際に機能しているでしょうか。今号では、義務化後に確認していただきたいことをお伝えします。

 

 

◆整備しただけで終わっていませんか

 

義務化を受けて、カスハラに関する方針を定めた、相談窓口を設置した、対応マニュアルを作成した、教職員に通知を配布したという学校設置者もあると思います。

 

しかし、本当に大切なのは、それらが実際の場面で機能することです。

 

例えば、相談窓口を設置しているとしても、教職員がその存在を知らなければ利用することはできません。

窓口を知っていても、どの程度の問題になったら相談してよいのかが分からなければ、一人で抱え込んでしまうかもしれません。

 

また、対応マニュアルが整備されていても、問題が起きたときに活用できない、どこにあるのか分からないという状態では、十分に機能しているとはいえません。

 

制度を整えることは「入口」です。

 

義務化後に問われるのは、「教職員が知っているか」「教職員が使えるか」「困ったときに実際に支援を受けられるか」という実効性ではないでしょうか。

 

 

◆正当な意見や要望との線引きは

 

学校におけるカスハラ対策で難しいのが、正当な意見・要望とカスハラとの線引きです。

 

文部科学省のガイドラインでは、保護者等を教育上の重要なパートナーと位置付けています。したがって、学校に対する厳しい意見や苦情があったという理由だけで、カスハラと判断することは適切ではありません。

 

学校の説明が不十分であったり、事故やいじめ等への初期対応に問題があったりすれば、保護者が学校に説明や改善を求めることは当然に考えられます。学校にとって耳の痛い内容であっても、正当な意見や要望には誠実に向き合う必要があります。

 

 

一方で、要求内容に妥当性がない場合や、要求を実現するための手段・態様が社会通念上許容される範囲を超え、教職員の就業環境を害する場合には、組織として対応しなければなりません。

 

大切なのは、一人の教職員の感覚や経験だけで判断しないことです。

 

「どのような言動になったら管理職に報告するのか」

「どの段階で学校設置者に相談するのか」

「どのような場合に対応を打ち切るのか」

 

こうした判断基準が組織の中で共有されていることが重要です。

 

 

学校の安全、想定力

 

 

◆教職員が一人で抱え込まない仕組みは

 

学校における保護者対応では、問題が深刻化するまで、担任や一部の教職員が対応を続けてしまうケースがあります。しかし、カスハラ対策で重要なのは、問題が深刻化する前に組織対応に切り替えることです。

 

例えば、要求の繰り返しや長時間の対応、暴言・威圧的な言動、教職員への誹謗中傷などが見られた段階で、管理職や学校設置者へ情報を共有することが大切です。

 

そのためには、「困ったら相談してください」だけではなく、「このような状況になったら報告する」という具体的な基準を決めておく必要があります。

 

そして、相談を受けた管理職や学校設置者が、

 

「もう少し学校で対応してください」

「もう少し様子を見てください」

 

と学校や担当者へ戻すだけでは、組織的な支援とはいえません。誰が対応を引き継ぐのか、誰が同席するのか、学校設置者はどのような支援を行うのか。そこまで具体化されて初めて、「一人で抱え込ませない仕組み」が機能します。

 

 

◆学校設置者による支援は機能していますか

 

今回のカスハラ対策で特に重要なのは、学校設置者の役割です。公立学校であれば設置者である都道府県・区市町村(教育委員会)、私立学校であれば学校法人などが、学校を支援する体制を整える必要があります。学校だけでは解決が難しい問題が発生したとき、学校設置者が対応に加わったり、必要に応じて弁護士、警察、当機構等と連携したりする体制になっているでしょうか。「相談窓口があります」というだけでは十分ではありません。学校が困ったときに、実際に支援につながる体制になっていることが大切です。

 

「学校を孤立させない」

「管理職を孤立させない」

「教職員を孤立させない」

 

そのための仕組みが、今回の義務化を機に改めて問われているのではないでしょうか。

 

 

◆研修は「知識」から「対応力」へ

 

カスハラについて教職員へ通知したり、ガイドラインを配布したりすることも必要です。しかし、それだけで実際の対応ができるようになるとは限りません。

 

例えば、「同じ要求を長時間繰り返されたらどうするか」「面談中に大声を出され、机を叩かれたらどうするか」といった具体的な場面を想定して、教職員同士で対応を考える研修が有効です。

 

カスハラの定義を「知っている」ことと、実際に「対応できる」ことは同じではありません。義務化後は、研修が「教職員が実際に対応できる内容になっているか」という視点で確認する必要があります。

 

 

◆「義務化」を学校を変えるきっかけに

 

カスハラ対策が義務化された目的は、教職員が安心して働くことができる環境をつくることです。それは、教職員が安心して子どもたちと向き合える環境づくりにもつながります。

 

一方で、カスハラ対策を理由として、保護者や地域住民からの正当な意見や要望を遠ざけることがあってはなりません。正当な意見や要望には丁寧に対応する。しかし、社会通念上許容される範囲を超えた言動からは、組織として教職員を守る。この両立が求められます。

 

 


※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。

 編集者 元公立小学校・中学校 校長 鈴木彰典

 

 


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