ラポールの形成/ 鈴木彰典 元 校長
学校リスクマネジメント推進機構の鈴木彰典です。私は過去に校長経験が13年あり、マスコミが注目していた教育困難校の立て直しを任されてきた経歴もございます。このような学校では報道される内容と実情が全く異なることもあるのですが、様々な経験が今の学校現場の支援に活かされていると感じております。
さて、保護者とのトラブルを未然に防ぐ、或いは拡大させないためには、信頼関係を築くことが大切です。そのためには、「この人とは気が合うな」「この人の言うことならば聞いてもいいな」と思われるような関係(ラポール)を形成することが必要です。
今回の学校リスクマネジメント通信は、ラポールの形成について、お伝えしたいと思います。
◆信頼関係ができるプロセス
初対面の人や顔を知っているけど話したことがない人に対して、誰でも最初は「警戒」や「疑心」を抱きます。それが、挨拶をしたり、ひと言、ふた言でも言葉を交わすようになると、「知らない人」が「ちょっと知っている人」になり、そして、気が合う状態になると「親和」の気持ちが生まれます。さらに付き合いが深まると「信用」「信頼」の気持ちへと発展していきます(下図参照)。
また、話をしたことがあっても保護者との関係性が「警戒」「疑心」の段階にある時には、適切なクレーム対応は出来ません。まずは親和状態を築くことが大切になります。この親和状態を「ラポール」といいます。
ラポールはどのように形成すれば良いでしょうか。それは相手の立場に立つということです。相手と同じ動きをし、同じ言葉を発し、同じペースで振る舞うことです。信頼関係を築くには、それなりの時間が必要ですが、ラポールは短時間で形成することが可能です(下図参照)。
これから、ラポールを形成するために必要な「ミラーリング」「バックトラッキング」「ペーシング」「傾聴」について説明していきたいと思います。
◆ミラーリング
ミラーリングとは、鏡に映るように話している相手と同じ動作をすることです。ミラーニューロンという神経細胞の作用をうまく利用する方法です。例えば、保護者の方が面談等に来て座ったら、あなたも座る。保護者の方が資料をめくりながら見たら、あなたも資料を見る。保護者の方がお茶を飲んだら、あなたもお茶を飲む。このことを無意識に行うことがポイントです。全ての動きを真似する必要はありません。真似できる動きだけ真似する。無意識に行うことで共感が生まれていきます。なお、過剰なミラーリングは逆効果になりますので注意してください。
◆バックトラッキング
オウム返しのことをバックトラッキングと言います。例えば、保護者の方とあなた(先生)が雑談をしている時に、
あなた:「お母さんは、どんな食べ物が好きなんですか?」
保護者:「私は、日本料理が好きなんです。」
あなた:「日本料理ですか。日本料理いいですよね。どんな日本料理が好きなんですか?」
保護者:「日本料理と言っていいか分からないんですが、
お蕎麦が好きで、特にざる蕎麦が好きなんです。」
あなた:「ざる蕎麦ですか。ざる蕎麦、私も好きです。」
あなたは、お母さんの言葉を繰り返しています。オウム返しをしているだけですが、お母さんは、この先生と私の好みは合いそう、私のことを分かってくれそうな先生だと感じるようになり、心の壁が取り払われていきます。
バックトラッキングは、怒っている相手に限らず、普段のコミュニケーションにおいても、人間関係を円滑にしていくうえで、役に立つテクニックです。会話の中で、折に触れ、バックトラッキングを入れると、相手に肯定的な感情を与えることが出来ます。
◆ペーシング
ミラーリングに似ています。ミラーリングは主に相手の動作に合わせることであるのに対し、ペーシングは、呼吸、声のトーン、話すスピードなどのペースを相手に合わせることです。例えば、早口で話す保護者には、あなたも早口で話す。ゆっくり穏やかに話す保護者には、あなたもゆっくり穏やかに話す。話し方や呼吸などを相手と合わせることで、「何となく、あの人とは合うな」という感情が芽生えます。文字どおり「息が合う」「呼吸が合う」という「身体の生理機能が一致している状態」をつくると良いと思います。
◆傾聴
傾聴は、相手の言うことを途中で一切さえぎらず、ひたすら聴くことです。適度な相づちやうなずきを入れることで、相手は理解されていると感じて話しやすくなります。ポイントは相づちをして理解していることを相手に見せることです。そして、「何でも話してください」という姿勢が、相手の警戒を解き、信頼感を生みます。相手の感情に寄り添うことが大切です。良好な人間関係を築くために、普段のコミュニケーションでも意識してみて欲しいと思います。
以上、ラポールを形成するために必要なことを説明いたしましたが、ラポールは一瞬で築けたり、一日二日で築ける場合がありますが、なかなか築けない場合もあります。なかなか築けない場合でも、ラポールを築くプロセスを入れた方が、説得が難しい保護者には効果がありますので、参考にして頂ければと思います。
【重要】体調不良になっていませんか? 令和6年8月28日(水)のNHK「あさイチ」でも放送されましたが、ワクチン接種には極めて慎重な判断が必要ですので、注意してください。(代表:宮下賢路) |
※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。
編集者 元公立小学校・中学校 校長 鈴木彰典