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体罰になる?ならない?

前回は、教師が生徒に「体罰」を加えたことにより、刑事事件に発展した事例についてお話をしました。教師が行った指導が、同じように見える行為であっても「体罰」に当たるとされ有罪となる場合と、「体罰」には当たらないとされ無罪となる場合があることを事例をあげて紹介しました。

以前なら形式的に判断され体罰とされていた行為も、その程度や行為の目的と照らし合わせ、教育上の目的からなされた正当な行為であると認められれば、「体罰」には該当せず無罪となるのが最近の傾向です。しかし、どこからどこまでが体罰となるのかの判断は難しいところです。裁判所は、なにをもって「体罰」に当たるかどうかを判断するのでしょうか。判断の基となる事実関係は、その行為を見ていた人の供述によって把握されることになります。体罰の場合、録音・録画していることなどがない場合がほとんどだからです。

したがって、先生方ご自身でも、自分の行為が体罰ではないことを証明できるよう、「なにゆえそのような行為におよんだか」という証拠を常々集めておくことが必要です。たとえば、日頃から問題行動を起こす生徒については、「何月何日、このような行為をしていた」ということをメモ、録音、録画などして記録を残しておくこと。もし、その生徒の行為が目に余ってつい叩くなどの行為をしてしまい、保護者から「うちの子がそんなことをするはずがない!」と言われた場合にこの記録が役に立ちます。

さて今回は、教師が生徒等に「体罰」を加えたことにより、民事訴訟に発展した事例を紹介しましょう。民事では「え、こんなことで訴えられるの?」ということがよくあります。自衛のためにも、やはり記録が重要です。

【事例1】児童の洋服をつかんで壁に押し当てた事件(最高裁S21.4.28)


3年3組の担任であるAが、2年生の男子Xに注意したところ、Xが、Aの臀部を2回蹴って逃げ出したため、Aは追いかけて捕まえ、Xの胸元の洋服を右手で掴んで壁に押し当て「もうすんなよ。」と大声で叱った。その後Xは、夜中に泣き叫び、食欲が低下するなどの症状が現れたが、通院治療の結果、症状は回復した。Xの親は、本件行為に起因して、XがPTSDになったとして国賠法1条1項に基づき約350万円の賠償を求めた。



第一審の熊本地裁は、A教諭の行為は体罰に該当すると判断し、Xは、A教諭の行為に起因してPTSDを発症した旨認定。原審の福岡高裁でも、AとXの年齢差、身長差、それまで面識がなかったことから、社会通念に照らし教育的指導の範囲を逸脱するものとして「体罰」と判断。ただしPTSDとの因果関係があるとは言えないと判断しました。

しかし最高裁は、「教師Xの行為は、このような悪ふざけをしないように指導するために行われたものであり、悪ふざけの罰として肉体的苦痛を与えるために行われたものではないなど判示の事情の下においてはその目的、態様、継続時間等から判断して、教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく、学校教育法11条ただし書きにいう体罰に対当せず国家賠償法上違法とはいえない」との判断を行いました。

【事例2】生徒の頭髪を黒色に染色した事件(大阪地裁H23.3.28)


公立中学校に在籍していた女子生徒Y及びその保護者が、同中学校の教員らがYに対して生徒指導と称して頭髪を黒色に染色するという体罰をしたなどと主張して、同中学校を設置管理する地方公共団体に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求をした。



本件はどのようにして、民事事件にまで発展したのでしょうか。経緯を振り返ってみます。
Yの保護者はYから、Bによって髪を黒色に染色されたことを聞き、校長、担任、学年主任、生徒指導教師に対し抗議をした。Yの保護者は、学校を数回訪れ、謝罪を求めるとともに、県教委、市教委に報告・相談。書面による謝罪および損害賠償を求めた。これに対し校長は、「本件は生徒指導の一環としてYの同意を得て行った。保護者の承諾を得ていなかったことについては、謝罪をしている」と回答。

Yの保護者は、学校に対し訴訟を提起した。これに対し、裁判所は、「国家賠償法上の違法性は認められない」と判断。「本件染髪行為は、教員の生徒に対する有形力の行使ではあっても、教員が生徒に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱したものとはいえず、学校教育法11条ただし書にいう体罰にも当たらない。したがって、そこに国家賠償法1条所定の違法性を認めることはできない」として請求を棄却。なお、女子生徒からは、男性教師が無理にカーディガンを脱がせたとの主張もありましたが、このような事実は認められないとの判断がなされています。

この事例では、結果的には女性生徒側の請求は認められませんでした。しかし、もしこのような行為に及ぶに至った経緯を逐ー記録して、これまでもさんざん指導してきたが、生徒が言うことを聞かず、やむを得ず行った行為だと説明できれば、訴訟になる前に問題が解決したかもしれません。仮に保護者から「刑事告訴するぞ」と言われても、訴訟上対応できる材料があり、裁判になった場合の予測ができれば、心理的にも有利な対応ができるでしょう。証拠さえあれば、保護者のクレームも恐れるに足りません。

保護者が学校に抗議に来た場合も、恐れることなく毅然と対応しましょう。まず「申し訳ありませんが、0時には出なければなりませんので」等、時間を区切ることです。そして時間になったら「おっしゃることはよくわかりました。学校としても伺った件を前提に対応致しますので、今日はここまででお引き取りください」と行って帰っていただきます。それ以上居座るようであれば、保護者の態度にもよりますが、警察を呼ぶこともできます。先々の展開をある程度イメージしておけば、余裕をもって対処をすることができます。



この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。


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