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学校リスクマネジメント推進機構|学校と教職員向け危機管理相談
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裁判に勝って危機管理に失敗する

あなたは弁護士についてどのようなイメージを持っていますか?それは、困った時の頼れる法律家かもしれませんし、何でもできる優秀な人かもしれません。学校では様々な場面でその活躍が期待されていて、私立学校や教育委員会では顧問契約をしているケースも多くあります。
しかし、学校が弁護士の活用場面を間違ったために、甚大な損失を受けているケースもあります。それはどういうことでしょうか。実際の事例に基づき説明をしたいと思います。

弁護士の活用と深い落とし穴


ある私立学校では、いじめがあったとして、保護者が学校に謝罪と迅速な対応を申し出ていました。子どもは軽傷を負っています。
そこで学校が顧問弁護士に相談し、経緯を説明したところ、「学校には法的な落ち度がないので、保護者への謝罪を一切しないように」とアドバイスがあり、学校は素直にそれに従いました。謝罪をすると非を認めたことになり、今後の話し合いや裁判で不利になるというのがその理由だったそうです。
しかし、謝罪を何度となく拒否された保護者ば憤慨し、怪我をしていた息子を病院に連れていきました。そして、診断書をもらい地元の警察署に被害届を提出。警察はすぐにそれを受理したのです。
その後、保護者は人権団体にも救済を求めました。学校は2度ほどその団体の代表者と話し合いを持ちましたが、その時の弁護士のアドバイスも謝罪の必要はないというものでした。
しばらくすると、人権団体や保護者からマスコミに話が拡がり、学校はメディアの格好の餌食になってしまいました。人権団体とのやり取りが報道され、校長が非を認めずに会見で正当性をアピールしている様子や、生徒·教員に混乱が生じている様子などが併せて放送されてしまったのです。

学校ではその日から、テレビの視聴者や保護者からの苦情電話が鳴りやまない状態になってしまいました。さらにネットでもかなりの書き込みがあり、風評被害が生じていて、学校名を検索するだけで、学校批判のブログ、新聞記事、また、誹謗中傷の掲示板などが1ページ目に複数表示されてしまっているのです。これは、この学校に興味がある人が学校名を検索した際に、イメージダウンに直結する複数のページがいくつも表示されているということです。この学校のブランドイメージはどうなってしまうのでしょうか?
一方、この保護者は「学校と担任がいじめを防止するための配慮を怠った」として裁判を起こしていたのですが、2年後に結審し、この保護者の主張は退けられました。
つまり、学校側には損害賠償の支払い義務がないということが認められたのです。

この事案を当初から担当していた顧問弁護士は、「裁判で負けなくてよかったですね」と胸を張っていたそうですが、この事実は報道ニーズがないため、一切メディアでは取り上げられません。従って学校の地に落ちたブランドイメージの回復には全く寄与しないのです。
この時の学校は落ち着きを取り戻し、通常の形で授業が行えるようになっていたのですが、いじめ報道でイメージが悪化したため、募集活動にかなり悪影響が出ていました。なんと入学者数が昨年の半分以下になってしまったのです。これは当初の予想を凌駕するものであり、校長はかなりのショックを受けて校長はかなりのショックを受けていました。この学校は深い落とし穴にはまってしまったのです。

弁護士の専門領域を間違えてはいけない


世の中には前述のようなケースが少なくありません。この学校は「裁判に勝って危機管理に失敗してしまった」のです。あなたはこの事例をどう思いますか?
危機管理は学校のダメージをトータルで抑える目的で行なわれますが、この学校は多様なダメージのわずか1部である法的ダメージのみに注視し、ほかのダメージの管理をすることができませんでした。その結果、ブランドカが低下して入学者数が激減してしまったのです。
少し考えて欲しいのですが、これは弁護士の責任なのでしょうかついいえ、違います。弁護士は裁判にも勝ちましたし、自分の役目を果たしているのです。
では、何が問題だったのでしょうか?

それは、学校が弁護士の専門領域ではない保護者対応や人権団体との対応、また、マスコミ対応という領域に、弁護士の専門性を求めてしまったということです。つまり弁護士は何でも知っていると考えた学校側の判断ミスです。
弁護士の専門は法律ですので、弁護士がアドバイスを求められれば当然法律の見地からのアドバイスになってしまいますし、専門外の質問とわかっていても、弁護士の多くはわからないとは回答しないでしょう。
保護者対応や人権団体との対応では、主に相手の感情を抑える手段を講じることが解決策になりますし、マスコミ対応では主に報道価値を下げる手段が解決策になるのです。
そこには、それぞれに特化した専門領域が確立されています。

残念ながらこの状況で法的なアプローチをしてしまうと、相手の感情が悪化してしまい、裁判や更なる報道機会を創出してしまうことが多いのです。
つまり危機管理の失敗(ダメージの拡大=保護者の感情の悪化、裁判・再報道の誘発)に向けて解決策を講じていることと同じ対応だったのです。
危機管理はダメージを抑えることが目的なので、それを実現するために必要な手段が選択されない場合、ダメージはおのずと拡大してしまいます。
ところで、危機管理に失敗したこの学校の金銭的なダメージはどの位だったのでしょうか?詳細は避けますが、6年間(私立中高一貫)で考えると生徒が激減した影響は十数億円に達しているものと思われます。その他、地に落ちたブランドイメージの損失分を金額に換算するとかなりの損失がこれにプラスされることになります(公立学校でもぜひ参考にしてください)。
このように弁護士を活用する場面を誤ると、深い落とし穴にはまってしまいます。
危機管理に失敗した代償は取り戻せないほど大きいのです。この機会にあらためて認識して頂けると幸いです。



この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。


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