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バスに取り残されて死亡した 園児について(考察)

ある幼稚園の園児がバスに取り残されて死亡した事故に注目が集まっています。

この場をお借りして亡くなった園児のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族に対して心よりお悔やみ申し上げます。今回のニュースレターは簡単ではありますがこの件についての意見を述べさせて頂きたいと思います。

 

 

◆所感

9月12日現在、まだこの件に関する報道が過熱していますが、やはり園側の対応は杜撰であったと言わざるを得ません。事故を発生させたことは勿論、発生後の記者会見は見るに堪えないものでした。
園側は亡くなった園児の名前を間違えただけではなく、時折笑顔を見せ、今回の事故と直接関係の無い人出不足の現状を訴えるなど、記者会見から受けた印象は極めて悪いものでした。恐らく、会見に関する方針は何も無く、リハーサルもしていなかったように見受けられます。つまり、何のために記者会見をおこなうのか?という目的が定まっていないまま会見に臨んでいたことが推察されます。

 

今回のような死亡事故が発生してしまった状況での会見の主な目的は、園児の命を奪ってしまったことに関する誠実な謝罪と事故に関するこれまでの事実説明、そして今後の対策についてです。
本来、これらの目的を達成するために必要な情報を収集・整理し、適切な伝達方法やコミュニケ―ションの方法を逆算しながら決めていくのですが、残念ながらこのような状況は全く感じられませんでした。

 

会見では、①聞かれなくても話すこと、②聞かれたら話すこと、③聞かれても話せないこととその理由等を整理し、誰が何をどの順番でどのように話すのか?等を固めてから必ずリハーサルを行い想定問答集を作成・最適化させておくことが鉄則です。
さらに今回の様に園側に責任があると思われる事故の中で、自分たちの立場を弁護する人間を会見に同席させること自体、目的が定まっていなかった証かと思います。
ご遺族は園が早々に弁護士を立てた場合、自らを防御し、責任逃れをしようとしていると感じると思います。勿論、事件・事故の状況や弁護士の技量によっては同席が必要な場合も当然あるのですが、危機管理に失敗した今回の結果を見る限り、効果的な手段ではなかったと思います。
もし、会見の目的が明確になっていれば、園がご遺族への深い謝罪の気持ちを感じて頂くためにはどの様な手段を講じ(又は講じない)、誰がどのようなコミュニケーションをとれば良いのか?ということを考えられたはずです。更に開催した保護者会では数名の出席者が過呼吸を起こして救急車で搬送されたことも報道されています。この保護者会では一体何があったのでしょうか?危機管理では絶対に防ぐべきである、このような2次被害も発生しているのです。きっと保護者会に参加したご遺族は我が子を亡くした深い悲しみと共に園の対応によって絶望と怒りの感情が錯綜している状態にあったと思います。

 

 

◆客観視する

これらの状況を視点を変えて見てみると、未然防止と発生後の事後対応(危機管理)の両面が全く機能していなかったことが分かります。未然防止は発生頻度(確率)を減らすこと。事後対応は影響度を減らすことです。

このようなリスクマネジメントが機能していないので、事故が発生し、ダメージが広がったのです。

 

全体像の理解(時間軸の概念)

 

では、何故リスクマネジメントが機能していなかったのでしょうか?それは「園側のリスクセンスが低かった」ということになると思います。この「リスクセンス」とは「危険なことを危険なこととして認識できる力」のことで、これがないと目の前の危険を察知することができないため、対策に辿り着かないのです。
リスクセンスの低さは危機意識の低さに直結しているため、残念ながらバスの送迎に伴う安全面は勿論、記者会見、保護者会でのリスクが想定できなかったのではないでしょうか。


園は保護者会と記者会見を同じ日に行ったようですが、園にリスクセンスがあれば同じ日に開催する判断はしないはずです。ただでさえ警察の長時間に及ぶ事情聴取や保護者、ご遺族、記者への対応、その他日常業務も重なっているのです。私の経験上、全職員が精神的にも限界で恐らく寝不足の状態にあったと思います。このような中でノウハウも無い中、保護者会と記者会見を同日に開催する時点で危機管理に失敗することは明らかです。リスクセンスが低いとこのように危険を察知することができないのです。

 

 

◆どうすればよいのか?

今回の事故に限らず、危機の発生を防ぐためには、何が危険なのか?ということを知らなければなりません。その危険なことを認識するための方法の一つとして、「ハザードとリスクの洗出し」という手法があります。これをやると何が危険であるのか?ということやそれらの優先順位、対策が理解できるようになります。そして、リスクが見える化されていくため、自分や学校の課題が一目で認識しやすくなるメリットもあるのです。

 

 

◆重要なのは未然防止

未然防止は危機の発生頻度をいかに減らせるか?という観点でリスク(損失の可能性)やハザード(危険な環境や要因)を洗い出し、その大きさを数値化(優先度を決める)して4つの切り口で事前に対策(低減・軽減・回避・容認)を講じることです。しかし、まずはこの考え方を知らないと実行することはできません。
実はこの方法を学べる研修は既に複数の私学や教育委員会等に導入されています。
ご興味があれば当機構へお問い合わせ頂ければと思います。参加者のリスクセンスを高める効果が期待できます。現在の外部環境は非常に厳しいのですが、リスクセンスが高ければリスクに気付くことが出来るのです。今回の事故を無駄にしないために各校、各園でリスクマネジメントを進めて頂ければと思います。

 


 
この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。


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