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学校リスクマネジメント推進機構|学校と教職員向け危機管理相談
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どのようなときに教師は責任を追及されるのか?

今回は、実際の事例を紹介しながら、教師が民事責任や刑事責任を問われるのはどのような場合か、どうすればそういう事態が防げるのかを考えてみます。もちろん、裁判にならない方がよいのですが、いずれも学校の教師の行為が原因で実際に民事裁判、刑事裁判となった事例です。公立・私立学校問わず、参考にして頂けると幸いです。

事例1
担任教師不在時に教室で生徒が怪我をした事例

担任教師Aが、職員会議が長引き、教室に入るのが遅れていた数分の間に、係である児童Xが、席を離れていた児童Bを注意したところ、BがXに対してプラスチックの破片を投げ、これがXの左目に当たった結果、Xが受傷したという事故について、Xが学校管理者であるH市に対し損害賠償請求訴訟を提起した。


判決は、当該クラスに問題行動をとるBがおり、担任であるA不在時にBが本件のような行動をとることは、Aにおいて十分に予測することができたと認定し、さらに、小学校4年生という思慮分別が十分でなく、しかもBという問題のある児童がいる集団においては、Aの入室が遅れる場合には係の指示に従って自習をするよう指導していただけでは、教室内における安全配慮義務を尽くしたものとはいえないと判断し、Aには本件事故の発生について過失があるとしました。

職員会議などを理由として、教室に入るのが遅れるということはそれほど珍しくないのではないでしょうか。そのように教師が不在のときに児童が怪我をしたときであっても、その怪我が発生することが予測できるものであり、また、これを避けるために適切な配慮を行わなかった場合には、生じた怪我について教師の責任が認められる結果となるのです。本事例のように、問題行動を起こすおそれのある児童•生徒がいる場合、他の児童では対処が困難と思われる場合には、教師は、年齢に応じた適切な配慮をすることを求められているものといえます。

事例2
教師が児童の頭部を殴打した行為が
「体罰」に当たるとされた事例

ある小学校の6年生が、担任教師Tに写生をすると言って学校を出たにもかかわらず、実際は野球をしていた。担任教師Tは、児童たちに罰として校庭を走らせ玄関前の廊下に立たせた。別の教師Aも憤慨し、児童らの頭部を右手拳で1回ずつ殴打した。


この教師Aは、暴行罪(刑法208条)で有罪となりました。学校教育法第ll条は「校長及び教員は教育上必要があると認めるときは、監督官庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる(懲戒権)。但し、体罰を加えることはできない。」と規定しています。殴打のような暴行行為は、たとえ教育上必要があるとする懲戒行為としてでも、許されないというのが判決内容でした。これに対してAは上告しましたが、最高裁は上告を棄却したため、有罪が確定してしました。

事例3
教師が生徒の胸ぐらをつかんだ行為が
「体罰」に当たらないとされた事例

定時制高校で給食時に食堂を利用する生徒の指導に当たっていたAが、食器を片付けるように注意してもそれを無視し食堂から出ようとして靴を履こうと屈んだBに対し右手掌部をBの頸部に当てて後ろ上方に押し戻そうとし、その際、軽い頸部の挫傷を負わせ、さらに、Bを同人が飲食していたテーブル付近まで連れて行くため何度かBの体を押し、その間、Aに向かってきたBの胸ぐらを掴んだ。


この事案では、裁判所は「生徒が授業中に無断で教室を抜け出したりすれば、生徒の腕を掴んで教室に連れ帰る程度のことは当然許容されるべき」であり、授業を妨害するような生徒を「一時的に生徒の体を押さえ付けたり、生徒の体を押すなどして(その場から)追い出すことまで一切許されないなどと解することは社会常識にもそぐわない」という価値判断を前提として、一定の場合には、有形カの行使(暴行)が許容される場合があると判断しました。そして、首を押した、胸ぐらをつかんだという行為について、形式的には暴行に該当するものの「体罰には該当しない行為」であるとして、Aを無罪としました。

2、3の事例を見てわかるのは、裁判所は、古くは教師の生徒に対する有形力の行使は教育上必要がある場合であっても「体罰」に該当し、許されないという態度をとっていましたが、昨今は形式的には暴行罪に該当すると判断された場合でも、行為により生じた身体的侵害の程度、(叩く等の)行為の態様・程度、行為に出た目的、教育的効果、(暴行を受けた者の)非行の内容等の兼ね合いによって、それが教育上の目的からなされた正当な行為であると認められれば、「体罰」には該当せず、無罪になるという態度をとっているということです。

日頃から問題のある生徒で、再三の注意にも関わらず指示に従わないため、最終手段として手を出してしまった、という場合にも「体罰」だとされて有罪になったのでは先生方もたまったものではありません。それゆえ裁判所の態度の変化は、教師の立場からすれば評価できるものと考えます。
ただし、裁判上、教育目的から行った行為であることを主張できなければなりません。そこで、「教育上必要な懲戒であり、体罰ではない」ということを証明できるよう、「なにゆえそのような行為におよんだか」という証拠を常々集めておくことをお薦めします。

日頃から問題行動を起こす生徒がいる場合は、いつ、どこで、どのようなことをしたのか、そのとき教師はどのような対応をしたか、ということを記録しておくのです。状況が許せば、録音、録画は有効な手段です。



この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。


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