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学校リスクマネジメント推進機構|学校と教職員向け危機管理相談
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いじめが発生した場合に学校又は教師が責任を追及される場合について

児童・生徒がいじめを受けたとして、保護者や児童•生徒本人から相談を受けた場合、学校及び管理職はどのような対応をすればよいのでしょうか。
今回は、学校または教師が保護者等から責任追及される場合について検討してみたいと思います。

教師個人が責任を負う場合がある


名古屋高裁平成24年12月25日判決は、「私立中学校一年生に在学中の女子生徒が同級生らからいじめを受けたことが原因で解離性同一性障害を発症し、その後自死した事実」について、学校及び教師らに責任があるとして女子生徒の保護者が提訴した事件です。
名古屋高裁は、学校及び教師らには「いじめを防止すべき適切な措置を講じるべきであったにもかかわらずこれを怠った過失があるから」として、解離性同一性障害の発症により生じた損害について学校及び教師らに対し、連帯して600万円余りの損害賠償金を支払うことを命じる判決を下しました。

本件で特徴的だったのは、教師らの責任が認められ、学校の運営主体である学校法人とともに連帯して女子生徒の保護者に対して損害の賠償をするようにとの判決が下された点にあります。
公立学校の場合は、学校の運営主体である地方公共団体の責任が認められたとしても、公務員である教師個人の責任はよほどの例外的な場合でない限り認められることはありません(最高裁昭和30年4月19日判決等)。しかし私立学校の場合は、本件で認められたように、教師個人の責任が認められるおそれがあるのです。

責任を負わないためには

学校及び教師がいじめ等により発生した損害について責任を負わないためには、上記判決で学校及び教師らの責任が認められた根拠について理解する必要があります。
上記判決で学校及び教師らに損害賠償金を支払うとの責任が認められた根拠は、学校が生徒の生命・身体及び精神等の安全を確保すべき一般的な義務、いわゆる安全保持義務を負っていることに求められています。

安全保持義務違反が認められるのは、学校及び教師の側に、
①予見可能性があり
②結果回避義務に違反した事実があった場合
です。つまり、学校又は教師が、いじめ等児童•生徒の生命·身体及び精神(場合によっては財産)に対して危害が及ぶおそれがある事実について認識し、または、認識しえたとの事実が認められ、そのような事情を認識しえたことを前提に、危害の発生を防止するために必要な措置を採る義務があるにもかかわらず、当該義務を果たさなかった場合に、安全保持義務に反したとして責任を負うことになるのです。

具体的な事実に沿って検討すると、
①自身の受け持つクラスにおいていじめがあり、これにより生徒の生命・身体又は精神が害されるおそれがあることを認識しているか、通常の教師であれば認識しえた場合で、
②担任教師として、いじめを止めさせ、今後いじめが発生しないように具体的な行動をする必要があったにもかかわらず、そのような具体的な行動をとらなかった場合に責任が認められるということです。
もちろん、裁判所は学校や教師に不可能を強いる訳ではないので、いじめの事実やいじめにより児童•生徒に対し危害が発生することについて認識することが不可能である場合、または結果回避の措置をとるのが不可能であった場合にまで学校及び教師の責任を認めることはありません。

この点、富山地方裁判所平成13年9月5日判決は、「公立中学校において、いじめにより女子生徒が自死したという事件」ですが、女子生徒が自死することを予見するのは極めて困難であり、また、教師が具体的にいじめを解消するための様々な働きかけを行っていたことを理由に、担任教師が安全保持義務に違反したとはいえない旨の判断をしています。
上掲2つの事件からも明らかなように、学校及び教師は、常日頃から学校内にいじめ等、児童•生徒の生命等を侵害する原因が生じていないかについて注意するとともに、そのような事態が発生した場合には、速やかに十分な対応をとり、最悪の結果を生じさせないよう努めなければならないのです。

具体的な対応について


高知地裁平成24年6月5日判決は、「私立学校1年生の男子生徒が自死した事件」について、保護者が自死の原因について学校側に調査要請をしたにもかかわらず、学校側が十分な調査をしなかったとして、保護者の学校に対する損害賠償請求を認めた事案です。
本件からも明らかなように、裁判所は、学校にいじめを原因として児童・生徒の生命等に対する危害の発生を防止するだけではなく、いじめが発生した場合にはその原因についても調査・報告することを求めているといえます。
したがって、学校及び教師としては、保護者や児童•生徒等からいじめについての相談を受けた場合、当該いじめが存在するか、これにより児童・生徒に損害が発生するおそれがないか否かについて十分な調査をする必要があると思われます。



この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。


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