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子供を犯罪から守る

子どもを性犯罪から守るために/ 鈴木彰典 元 校長

学校リスクマネジメント推進機構の鈴木彰典です。私は過去に校長経験が13年あり、マスコミが注目していた教育困難校の立て直しを任されてきた経歴もございます。このような学校では報道される内容と実情が全く異なることもあるのですが、様々な経験が今の学校現場の支援に活かされていると感じております。

 

さて、近年、児童生徒が性被害を受ける事案、そして児童生徒自身が性加害に加わる事案が増加しています。特にSNSなどインターネットを介した接触が発端となるケースが顕著です。このような状況は、もはや一部の児童生徒の問題ではなく、すべての児童生徒に起こり得る身近な問題と言えます。今号では、未成年が関わる性犯罪の現状を踏まえ、学校としてどのように対応すべきか、そして家庭・関係機関とどのように連携して子どもを守ればよいかをご紹介します。

 

 

◆未成年が関わる性犯罪の実情

 

まず、被害側としての状況を見ると、SNSでのやり取りを通じて出会った相手から、被害を受けるケースが急増しています。また、性的な写真や動画を送るよう求められたり、軽い気持ちで自分を撮影した画像を送信した結果、それが拡散されてしまう「性的画像被害」も深刻化しています。

 

一方で、児童生徒が加害者となる事案も増えています。学校内でのわいせつ行為や、友人同士での撮影(盗撮を含む)・拡散など、遊びや悪ふざけの延長に見えても、被害者にとっては取り返しのつかない深刻な苦痛を与える行為です。

 

これらの背景には、性に関する知識不足だけでなく、「人との関わり方」「他者への思いやり」「同意や境界の理解」の未熟さがあります。また、性への強いこだわりや衝動・いわゆる性癖に関連した行動もあります。特に思春期の子どもたちは、欲求や関心が強まる中で、正しい判断や抑制が難しくなることも少なくありません。学校としては、こうした発達的特徴等を踏まえつつ、行動の背景にある心理面や社会的要因にも目を向ける必要があります。

 

 

◆ネット社会がもたらす“現実とのずれ”

 

スマートフォンの普及により、子どもたちは日常的にSNSやオンラインゲームを通じて他者と交流しています。相手の年齢・立場・意図が分からないまま関係が形成され、性的な被害やトラブルに発展することもあります。

 

さらに、ネット上では性的な表現や画像があふれており、「性」が軽く扱われる風潮もあります。現実の人間関係の中で、相手の気持ちを想像する力や他者を思いやる心が育たないまま、現実の行動に移ることがある――そうしたリアリティの欠如こそ、今の教育が直面する大きな課題です。

 

 

◆学校が果たす役割

 

学校に求められる役割は、「未然防止」「早期発見」「支援体制」の三つに整理できます。

 

(1) 未然防止 ~教育と文化の中で考える~

性的な知識だけでなく、「同意」「尊重」「境界」といった概念を、道徳・保健・総合的な学習の時間などで具体的に扱うことが大切です。「嫌と言える」「相手の気持ちを考える」「ネット上の行為も現実と同じ責任を伴う」 ――こうした感覚を子どもに育てることが、最大の予防策です。

 

また、SNSの使い方や画像送信の危険性について、具体的な事例を交えて指導することも効果的です。学校として、性やネットの話題をタブー視せず、日常的に扱う姿勢が求められます。

 

(2) 早期発見 ~声を拾える学校づくり~

被害を受けた子どもは、恥ずかしさや恐怖心から声を上げられないことがあります。「いつでも相談していい」「どんなことでも話していい」という雰囲気を日常の中でつくることが重要です。教職員が小さなサインに気づき、躊躇なくチームで対応できる体制が必要です。

 

(3) 支援体制 ~被害と加害の双方を支える~

被害を受けた児童生徒には、安全の確保と心理的支援が最優先です。必要に応じて、警察や児童相談所、医療機関など関係機関と連携し、二次被害を防ぎます。同時に、加害行為を行った児童生徒にも、教育的・心理的支援が必要です。「処罰」で終わらせず、行為の背景にある要因を探り、再発防止を図ることが学校の役割です。

 

 

◆家庭との連携

 

性の問題において、家庭との連携は欠かせません。被害児童生徒の保護者は強い不安や怒りを抱え、学校への不信を持つこともあります。一方、加害児童生徒の保護者も事実を受け止められず、混乱することが多いものです。そのため、学校は保護者に対して、

    • 子どもの安全を最優先していること
    • 冷静に事実を確認し、プライバシーを守ること
    • 必要に応じて専門機関と連携すること

を丁寧に説明し、信頼関係を築くことが大切です。

 

また、保健だよりや保護者会などで、「ネット上のトラブル」「性的な同意」「画像送信の危険」などを取り上げることで、家庭でもネット利用や性について話す機会を促すことができます。

 

 

相談

 

 

◆関係機関との連携

 

性被害や性加害の事案は、学校だけで解決できるものではありません。関係機関と連携することで、被害の拡大を防ぎ、適切な支援が可能になります。

 

主な連携先としては、教育委員会(公立学校の場合)、警察、児童相談所、医療機関、性暴力被害者ワンストップ支援センターなどがあります。特に重要なのは、「どの機関に、どの情報を、どの段階で共有するか」を事前に整理しておくことです。そのためには、平時から関係機関と“顔の見える関係”を築いておくと、いざという時の連携が迅速かつ的確に進められます。

 

 

◆教職員に求められる姿勢

 

性の問題に直面した際、教職員に求められるのは「冷静さ」「共感」「チーム意識」です。憶測に基づく行動や感情的な対応は二次被害を生む恐れがあります。事実確認は慎重に行い、被害児童生徒の尊厳を守りながら進めなければなりません。

 

また、教職員自身も過度な心理的負担を抱えやすいため、養護教諭やスクールカウンセラーなど、教職員自身が相談できる体制が必要です。

 

 

当機構にも、性被害や性加害のご相談が寄せられます。何かお困りのことがありましたら、遠慮なくご相談ください。

 


※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。

 編集者 元公立小学校・中学校 校長 鈴木彰典

 

 


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