
鈴木彰典 元 校長 / 生成AIとインターネット時代に求められる学校の対応について
鈴木彰典(学校リスクマネジメント推進機構)です。私は過去に校長経験が13年あり、マスコミが注目していた教育困難校の立て直しを任されてきた経歴もございます。このような学校では報道される内容と実情が全く異なることもあるのですが、様々な経験が今の学校現場の支援に活かされていると感じております。
さて、近年、生成AIを悪用したディープフェイクや、インターネット(以下、ネット)を通じて容易に入手できてしまう薬物、違法・有害情報の拡散など、子どもたちを取り巻く環境は、決して楽観視できる状況ではありません。今号では、これらの問題に学校としてどのように対応していけばよいか、情報提供いたします。
◆新たな視点を持つ
多くの学校では、以前から情報モラル教育や情報リテラシー教育、薬物乱用防止教育などに取り組んでいます。しかし、現実社会で起きている問題のスピードと複雑さは、従来の枠組みでは十分に対応できなくなりつつあります。今、学校に求められているのは、「想定外を想定する」という新たな視点です。
◆危険だから使わせないは解決策ではない
生成AIやネットをめぐる問題が起きるたびに、「学校では使わせない方がよいのではないか」「もっと厳しく制限すべきではないか」という声が上がることがあります。確かに、リスクを考えればそのような対応を求めるのも自然なことです。
しかし現実には、子どもたちはすでに日常的にAI技術やネットに触れています。学校で禁止したとしても、家族や友人、個人の端末を通じて接触する機会を完全に断つことはできません。むしろ「学校で触れない」「学校で話題にしない」ことによって、問題が水面下で進行し、気づいたときには深刻化しているという状況を招く恐れがあります。
◆悪意から始まっているわけではない
ディープフェイクや違法情報の拡散と聞くと、強い悪意をもった人物の存在を想像しがちですが、実際には次のようなきっかけで問題が起こることが少なくありません。
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- 「面白そう」「すごいと思った」
- 「友だちがやっていたから」
- 「冗談のつもりだった」
- 「まさか本当に問題になるとは思っていなかった」
生成AIは、専門知識がなくてもリアルな画像や動画を作成できてしまう技術です。その結果、他者の尊厳を侵害しているという実感を持たないまま、取り返しのつかない行為に至ってしまう危険性があります。
この点を理解しないまま、「やってはいけない」「違法だ」と伝えるだけでは、子どもたちの行動は変わりません。重要なのは、行為の先にどのような影響が生じるのかを具体的に想像させることです。
◆想定外を想定する
これからの情報リテラシー教育では、知識の伝達だけでなく、次のような視点が求められます。
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- 一度拡散された情報や画像は、完全に消せない
- 「知らなかった」「軽い気持ちだった」では済まされない責任がある
- 被害者は長期にわたり心身に深い影響を受ける
その際、抽象的な説明ではなく、「もしそれが自分だったら」「もし家族だったら」という視点で考えさせることが有効です。これは恐怖を与えるためではなく、現実社会で起きている事実と冷静に向き合うための学びです。
◆リスクがあるからこそ正しく活用する
生成AIやネットは、危険な側面だけをもっているわけではありません。使い方次第では、リスクを減らすための有効な道具にもなります。
例えば、
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- 信頼できる情報源とそうでないものの見分け方を学ぶ
- AIの回答を鵜呑みにせず、本当に正しいのかを検討する
- 危険な誘導や詐欺的表現の特徴を知る
といった学びは、机上の知識ではなく、実社会で自分を守る力につながります。
また、「困ったときに相談してよい」「早く大人に伝えることが解決につながる」というメッセージを、日常的に繰り返し伝えることも重要です。ネットの被害は、初期対応の遅れが被害拡大につながるケースが多いためです。
◆教職員に求められる姿勢を再確認する
技術の進歩が速い現代において、教職員がすべての新技術を完全に理解し、習得することは困難です。しかし、次のような姿勢は非常に重要です。
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- 知らないことがあることを前提に学び続ける
- 問題が起きた際に、頭ごなしで叱るのではなく、背景を理解しようとする
- 子どもを一方的に守る対象ではなく、判断力を育てる存在として捉える
学校が、失敗や不安を打ち明けられる場所であるかどうかは、日頃の教職員の関わり方に大きく左右されます。また、生成AIやネットの利用の仕方について、教職員一人ひとりの意識に任せるのではなく、学校全体で共通理解を図ることが不可欠になります。生成AIやネットを活用するにあたり、どのような力を育てたいのかを教職員間で共有し、保護者や地域の方々の理解を得ることが大切です。今まさに、教職員に求められる姿勢を再確認する機会と捉え、学校全体で取り組むべき時期を迎えているのではないでしょうか。
◆学校は社会への橋渡しをする場所である
生成AIやネットをめぐる問題に、万能な対策は存在しません。しかし、想定外を想定し、現実から目を背けず、対話を重ねることは、確実に子どもたちを守る力になります。
学校は、単に安全な場所であるだけでなく、危険を知り、判断し、助けを求める力を身につける場でもあります。教職員一人ひとりの気づきと関わりが、子どもたちの未来を大きく左右するからこそ、今あらためて「学校の役割」を教職員一人ひとりが再確認することが求められています。
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当機構には、今号でお伝えした内容に関するご相談も寄せられておりますが、今後さらに増加していく可能性があると考えられます。判断にお困りの場合、対応に苦慮された場合は、ご連絡をお願いいたします。さまざまなリスクを踏まえながら、解決策を一緒に考えて参ります。 |

※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。
編集者 元公立小学校・中学校 校長 鈴木彰典


