学校教育の危機/ 鈴木彰典

学校教育の危機/ 鈴木彰典

 今、学校教育の危機が叫ばれています。
そのことを象徴することが、最近の教員採用試験の倍率に表れています。

 

中には、大学の教育学部で学んでいる学生でさえも教員にはならず、別の道に進んでいるとのことです。

本号では、4つの視点から学校教育が直面している問題を取り上げたいと思います。

 

◆教職員の不祥事について

教職員の不祥事が後を絶ちません。

ほんの一部の教職員の行為によって、学校教育全体への信頼が揺らいでいることを大変残念に思います。

 

 文部科学省の「公立学校教職員の人事行政状況調査について」によりますと、懲戒処分(戒告、減給、停職、免職)を受けた教職員の人数は、
令和元年度から令和3年度までの過去3年間で、令和元年度が829名、令和2年度が711名、令和3年度が702名となっています。

 

これらの人数に私立学校で懲戒処分を受けた人数を合計すると、減少傾向ではあるものの、かなり多くの教職員が不祥事で処分を受けていることがわかると思います。

 

 令和元年度から令和3年度までの3年間の種別ごとの懲戒処分の人数は、下の表のようになります。

 懲戒処分を受けた教職員の穴を埋めようにも人材がいないと、不足分は学校現場が負わなければならなくなります。

 

一度、教職員の不祥事が起きますと、その後の学校運営に支障をきたしたり、無理を重ねた教職員が体調を崩してしまい、様々な面で弊害が表れる所に学校教育の危機を感じます。

 

◆生徒指導上のトラブルについて

 児童生徒等が携帯電話を持つようになり、児童生徒等の間でSNSによるトラブルが多くなりました。

校内のトラブルであれば、すぐに対応することができますが、SNSによるトラブルは根が深く、解決が困難なケースもあります。

 

 一部の私立学校以外では、小中学校は原則として、スマホは校内に持ち込むことを禁止していると思いますので、SNSによるトラブルの多くは校外で起きます。

 

加害者側と被害者側の間で謝罪が行われて解決すれば良いのですが、片方または双方の保護者が学校の指導に納得せず、問題を大きくするケースも見受けられます。

最近は、児童生徒等同士では解決しても保護者の理解を得るのが難しいケースがあります。

 

 実例をご紹介いたしますと、友だちのアカウントを乗っ取り、その友だちのふりをして嫌がらせのメールを送ることなどが起きています。

 

しかし、このようなケースは学校で対応することには限界があり、警察で相談してもらったのですが、警察でも確かな証拠が無い時は動きようがないため、結局は学校で加害者を探すように被害者側から求められてしまいます。

 

学校は捜査機関ではありませんので、教育の一環として対応することしかできません。

 

そのため、学校として最大限のことをしても被害者側が納得しないケースが起きたり、このことが原因で不登校になりますと重大事態になり、調査委員会や第三者委員会を設置して対応するケースが起きています。

 本来、携帯電話は保護者の監督責任の下で購入すると思いますが、いじめが起きると学校が対応することになります。

 

学校としてできることとできないことがあることを保護者の方に理解していただくことが困難なケースが増えています。

 

これまで、学校は保護者からの要請があると、無理をしても対応してきたと思いますが、できないことはできないと伝えていかないと、保護者の意識を変えることは難しくなりますし、学校が抱える仕事がいつまでも減らないことが続いていくことになります。

 

本来の業務である学習指導などに専念できない所に学校教育の危機を感じます。

 

◆保護者からのクレーム対応について

 当機構では、毎日のように教職員の方々からの相談を受けておりますが、約半分が保護者からのクレーム対応の相談です。

 

そして、保護者からのクレーム対応を大きく分けますと、いじめが原因のクレームといじめ以外が原因のクレームがほぼ同数になっております。

 

 また、保護者からのクレームは、校種に関係なく、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、専門学校、大学のいずれにおいても起きています。

 

 当機構に相談される内容は、学校(園)や教育委員会だけでは対応することが難しいケースが多いのですが、学校(園)の対応に誤りがあるケースと学校(園)は誠実に対応しているにもかかわらず、保護者が中々納得されないケースがあります。

 

特に、後者のケースでは、手の施しようがなく、対応に苦慮されて最後の頼みの綱として当機構に相談されております。

 

 学校や事案ごとに状況が異なりますので、それぞれの状況を踏まえて対応策や解決策をご提供させていただいておりますが、対応される管理職や教職員の方々のご苦労がひしひしと伝わってきます。

 

 今や保護者からのクレーム対応力を身につけないと、管理職や教職員としての務めを果たすことができないと言っても過言ではないと思います。

 

避けて通れない道であると認識し、誰がどのように対応するのかを全教職員で共通理解を図ることが必要です。

 

その際、初期対応の短期目標(クレームを拡大させないこと)を意識し、保護者が期待する3つのこと(「謝れ」「話を聴け」「説明しろ」)を心掛け、着地点を見出しながら対応すると良い方向に変わっていく可能性があります。

 

是非、身につけてほしい手法の一つですが、クレーム対応に苦慮する所に学校教育の危機を感じます。

 

◆家庭の教育力について

 当機構の研修会後に受講された方々にアンケートのご協力をいただいておりますが、「これからの学校は保護者に関わる苦情などのトラブルは更に増えてくると思いますか」との質問に、9割を超える方々が「とても増えると思う」と「増えると思う」のどちらかに回答されています。

 

 その理由をお尋ねいたしますと、どの研修会でも、保護者の考え方や価値観が多様化し、学校(園)に様々なことを要求してくる保護者が増えているとの回答が多く見られます。

 

そして、本来、家庭で行うべきことを学校が担わなければならないという回答も見られます。

 

 家庭教育の低下が叫ばれてから久しくなりますが、その傾向は今後も続いていくと思いますし、更に拡大していく可能性があります。

 

学校・家庭・地域の役割を表現する際に「家庭でしつけ、学校で学び、地域で育む」という言葉がありますが、家庭で土台を築いた上で、児童生徒等は様々なことを身につけていくと思います。

 

本来、家庭で身につけることまで学校が担わなければならない所に学校教育の危機を生み出す要因を感じます。

 

 本号では、4つの視点で学校教育の危機を述べましたが、世界情勢や日本を取り巻く環境など、更に視野を広げて考えると、その他にも様々な学校教育の危機が見えてくると思います。

 

未来を担う児童生徒等が変化の激しい社会をたくましく生き抜く力を身につけるためにも、学校(園)には様々な危機を乗り越えてほしいと願っています。

 

 


※この記事は当機構が制作・発行している「学校リスクマネジメント通信」をWEB版として編集したものです。編集者 元公立小学校・中学校 校長 鈴木彰典